タッパーウェアの話

 パイレックスと同じように、タッパーウェアも、物心がついた頃から身の回りにあった、馴染みの物の一つです。母の台所に重ねられている光景は、懐かしい匂いや日の当たり具合や、暗がりと共に良く覚えています。

 使い込まれたタッパーウェアは、少し歪んでいたり、傷が付いたりしていました。
 何年も、何年も、お役目を果たし、「お正月にお餅を入れておくタッパーウェア」とか、「酢の物を入れるタッパーウェア」というように、勝手に名前を付けられていました。

 惣菜を他へ持って行くことが割と多かったのですが、お正月のおせちも同じく、祖父母の家や親類の家などへ届けていました。
 大晦日、忙しい母の代わりに、出来立てのおせちを届けるのは父の役目でした。
 なぜか末っ子の私もそれに付いて行っていたのですが、後年聞いたところによると、「父が一人で届けると、相手方も気を遣うだろうし、父も道中一人じゃ寂しいだろうから。」というのが、その理由だったようです。
 日の暮れた頃、父は両手にタッパーウェアを山程下げて、家を出ます。電車に乗り、二、三軒にそれを届けて帰って来るのでした。大して、というか何も役に立たない小さな子供と一緒に。
 タッパーウェアには、名前のシールが貼られていました。
 どこの家でも、タッパーウェアを使っていたので、うちにちゃんと戻ってくるように、というわけで、名前を貼っていたのでした。

 おしゃれ雑貨にはほど遠い、幼い頃のタッパーウェアの記憶ですが、ああ、お世話になったなあと思います。
 母は変なところが几帳面で、平たいタッパーウェアの中に、魚なんかがきちっと揃って並べられていたのを覚えています。

 今は色々なものが、何でもありますが、当時はタッパーウェアしかありませんでした。だから今も昔も、皆何でも「タッパー」と呼んでしまいます。それは日本だけではないそうで、ちょっと面白いですね。


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